「キットによって見積もりが全然違うけどなんでなの?」
そんなお客様の疑問にお答えするコラムをご用意いたしました。
当店が見積もりの根拠としているキットのポイントを解説します。
【スケール・大きさ】
大きい方が高額になります。
これは表面積の増大によってヤスリがけなどの表面処理*やマスキング*、筆塗りの作業量が増えるためです。
ちなみに「1/8・1/7・1/6」スケールフィギュアを比較すると表面積の割合はおよそ「1.0
:1.31:1.78*」となり、おおむね同じ倍率くらいで料金に反映されます。
小さい < もっと小さい
小さすぎると逆に作業が細かく難度が上がってしまう傾向があります。
1/9スケール以下になると1/8や1/7に比べてアイペイントの難度が上がるなど作業がしづらく手間がかかることも多くなります。
【パーツ数】
多い方が作業量が増えます。
20パーツ未満は並盛り、20~35は大盛り、36~50で特盛り、50パーツを超えるとメガ盛り、といった感覚です。バイクやメカ武装などの付属品が多いキットは100を超えますのでかなりの高難度になります。
ただしパーツ分割が少なすぎて塗り分けやパーツ整形が煩雑になる場合、逆に難度が上がり高額になることがあります。
【塗り分け】
塗り分けが多いほど作業量が増えます。
調色にも熟慮・テストを要するためカラフルなキットは高額とお考えください。
↓塗り分け難度C(制服などシンプルなもの)
↓塗り分け難度B(水着やラインなど)
↓塗り分け難度A(カラフルで精密なもの)
【パーツ形状】
パーツの形が複雑なほどヤスリがけなどの表面処理*に時間がかかり、金額にも大きく影響します。フリルは特に手がかかるパーツの代表です。
【髪の毛】
長い髪、ウェーブがかかった髪は表面処理やヘアラインの掘り直し、塗装に非常に手間がかかります。弓兵を従えた魔術師さんは高難度の代表格です。
↓髪型難度C(まっすぐなショート・セミロング)
↓髪型難度B(まっすぐなロング・ウェーブのセミロング)
↓髪型難度A(ウェーブのかかったロング)
【パーツの状態】
ガレージキットのパーツにはシリコン型で複製する際に発生する「気泡*」「カケ」「細部の潰れ」「ゆがみ」などの不具合があります。
品質の良いキットは気泡やカケが少なく作業がしやすいのですが、気泡やカケ、ゆがみが多いキットは修正に非常に手間がかかり料金も高額になります。
キットを当店にお送りいただいた時点でざっと確認をしますが、「ヤスリをかけたとたんに隠れていた気泡が無数にわいてくる」といった地獄のような状況も多々発生します。
そういった場合にはやむを得ず料金増額のご相談をさせていただく場合がございますので見るからに品質が悪そうなキットをご依頼される際はご注意ください。
【キットの新しさ】
一概に言えませんが古いキットほどパーツの状態が悪く、高額になる傾向にあります。
近年は複製技術の進歩により先に述べた気泡やカケが少なくなってきていますが20~30年前のキットになるとほぼハチの巣と言っていいくらいのキットもあります。昔の技術的に仕方がないのですがおゆまるで複製したのだろうかと思えるほどディティール*がつぶれたキットもあり無限に時間を消耗することもしばしばです。
個人的に古いキットを作るのは好きなほうですがご予算はかなり多めにご用意ください。
【アイペイント】
ディーラー*作例や他のフィニッシャー*さんが作った作例に合わせるよりもイラストに合わせる方が難度が高くなります。
作例に合わせる場合は同じ形の同じパーツに描きますので物理的に再現可能ですが、イラストは目の形や鼻、口の配置が異なるため印象を完璧に合わせるには少々無理があります。
とはいえ「元絵に寄せてほしい」というご要望はたびたび頂きますので、当店では仮のアイペイントを行いイメージのすり合わせを行いますが手探りや修正が多くなるため多めに料金を頂くこととなります。
ちなみに瞳デカール*が付属している場合はデカールを使用することで料金をお安くすることができます。
【透け塗装】
透け塗装は何重にも薄く色を重ねながら時間をかけて仕上げる技法です。
エアブラシを吹く回数や時間が多くなりがちなため、ホコリの混入など塗装トラブルのリスクが上がり、修正が難くやり直すことも多い作業です。
【光沢】
つや消しに比べて光沢は下地のわずかなキズや塗面の荒れが目立つため、より精密な表面処理*、塗面処理が要求されます。
【模様・マーク】
左の作例の葉っぱの模様はデカール*、右の作例のリボンとアームカバーのラインは手描きです。手描きはかなり精密に描かないと線のヨレなどが目立つためやはりデカールがあると助かります。
【肌の露出】
ドレスなど塗り分けが多い衣装も手がかかりますが、肌はトラブルのリカバリーがしづらく、かなりデリケートです。気泡やキズ埋めの方法も衣類より制限が多く、パーツ整形にも特に気を遣うため水着は意外に難度が高いと感じるジャンルです。
ただし衣類の凹凸をきれいにパーツ整形して柔らかく仕上げるのもまた手がかかるため一概にどちらが・・・とは言い難い部分でもあります。
ざっと当店が見積もりの際に注目するポイントを整理してみましたが参考になりましたでしょうか?
他の製作代行業者さんも大体同じようなところを見て決められていると思いますので、見積もりをご依頼される際にお役立て頂ければと思います。
【用語・注釈】
*1.0:1.31:1.78
ChatGPTに計算してもらいました。
*表面処理:
型から外しただけのパーツは表面が荒れていたりパーティングライン*が入っていたりとそのままでは塗装が出来ないため、紙やすりやスポンジヤスリできれいに整えること等を言います。
*パーティングライン:
パーツを複製した時にできる型の合わせ目。タイヤキのパーティングラインっておいしいですよね。
*マスキング:
色を塗り分けるためテープなどを使って養生すること。最近は女性や若者が柄付きのマスキングテープをオシャレに使いこなしていて「世の中変わったな・・・」と思いました。
*鏡面仕上げ:
バイクモデルやカーモデルによく使われる、クリアーコートを磨きこんで鏡のようにピカピカにする技法。下地・塗面・クリアーコートすべてを抜かりなく平滑にする必要があるため手間がかかる仕上げです。
*デカール:
マークやロゴ、ラインなどが印刷されたシールのようなもの。水にぬらして台紙からずらして貼るため「水転写デカール」「ウォータースライドマーク」等と呼ばれます。キットに入っていたら見積もりの際にお知らせください。
*気泡:
パーツの表面に現れる小さな無数の穴。
ガレージキットの材料であるレジンキャストは粘度が高いため攪拌時に気泡が入りやすく、そのまま固まってしまうとパーツに小さな穴があきます。エアインチョコを想像するとわかりやすいですね。
*ディティール :
細部のこと。
近年ではイラストやCG、ヘアスタイルや盆栽などでも一般的に耳にする機会が増えましたがなぜか模型界隈ではかなり昔から使われていた言葉です。
*ディーラー:
ガレージキットを販売するサークルや個人のこと。
ディーラー名と原型師の名前が同じことが多いですが「ディーラー:○○」「原型:△△」のように別名義になっていることも多いです。
*フィニッシャー:
模型作りをする人の中でも特に仕上げ、塗装を行う人たちのこと。
広義には私たち代行屋やアマチュアのフィギュアモデラーもフィニッシャーと言えますが商業フィギュアに携わる人を指すイメージがあります。ちなみに海外ではbuilderかpainterと呼ぶのが一般的です。